幻界灘に棲む
・・・私ハ遂ニ此ノ謎ノ海域ニ辿リ着イタ。
敷キ詰メタ雲母ノ如キキラメク海面、水銀ヲ流シ込ンダ様ナ色彩ノ空。
踏ミ付ケル都度、キュゥッキュゥッ、ト、啼ク砂浜。
方位磁針ハ決マッタ方向ヲ示サズ、時間ノ感覚サヘモ狂ハセル、時空間ガ欠落シタ不可思議ナ海岸。
ソシテ、其処ニ棲息スル姿形モ其ノ生態モ、正ニ奇妙奇天烈トシカ言ヒヤウノ無イ数々ノ海棲生物達。
私ハ此ノ驚異的トシカ形容ノ仕様ノ無イ謎多キ海域、恰モ古ヨリ伝ハル常世ノ浜ノ如キ此処ヲ「幻界灘」ト名付ケル。
・・(中略)・・・ソシテ此処ノ位置ヲ示スモノハ天空ヲ行キ交フ月ノ運行ト、シリウス及ビ南十字星トノ空間的関係、更ニ31415ノ数字ヲ暗号トシテ記シテオク。・・・
これは、多々良 蝶介 著 「幻界灘ニ棲ム 」(明治後期、あるいは大正時代初期に著された)からの抜粋でございます。
多々良 蝶介 氏とは、明治後期から大正中期まで我が国に於いて様々な探索行に就き、多大なる功績を挙げつつも、当時の学閥から完全に無視をされる憂き目に会い、現在ではその存在すら認知されず、いや忘れ去られてしまっている探検家であり生物学者なのでございます。
彼は当時の政府が掲げた富国強兵策に乗っ取り、新たなる水産資源の開発と未開の海域探索、そして竜宮伝説に繋がりが深いとされる「常世の島」の存在証明を行う為、単身南洋へと向かったのでした。
その探索行の記録が、件の「幻界灘ニ棲ム」なのでございます。
私は独自の調査により、この文献にある謎の海域の位置を東南アジアの某国の海岸にあると睨みました。
そして単身、その海岸に調査に赴いたのでした。
ここに記された様々な海洋生物は、その「幻界灘」で私が自ら採取したそれらという訳でございます。様々な奇妙奇天烈な幻界灘の生物、ご覧下さい。
・・・では。
西暦2001年某月 江本 創
多々良 蝶介 氏
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